「抜け感」がしっくりこない違和感の謎
by miki morii
「抜け感」と聞いてどんなスタイルを思い浮かべますか?
ラフな着こなし、無造作なヘアスタイル、余白を感じるコーディネート。 でも実際に取り入れてみると、 「なんだかしっくりこない」「だらしなく見えるだけ」 そんな違和感を覚えたことはありませんか?
前回の記事では、抜け感とは「カジュアル化」ではなく、 経験に裏付けられた余裕や自信を感じさせる“エフォートレススタイル”であることを解説しました。
今回はその続きを深め、「なぜ抜け感が似合わないと感じるのか?」 その答えを“心理的なスタイル傾向”から紐解いていきます。
※本記事の内容は、私がスタイルエッセンス診断の実践と研究を通じて構築した独自の考察に基づいています。一般的なパーソナルスタイリング理論とは異なる部分もありますので、ひとつの視点として受け取っていただければ幸いです。
目次
【第2回|スタイルビジョンと抜け感考察シリーズ】
スタイルの個性を分ける、2つの心理軸
抜け感が必要かどうかは、単なる好みや体型ではなく、 「スタイルの動機」と「表現のアプローチ」という2つの心理軸で決まります。
A. たて軸:表現方法
─ その装いは結果的にどう“見える”のか? 意図や演出をどれだけスタイルに込めるか?
- エフォートフル(構築的)
- エフォートレス(自然体)
B. よこ軸:スタイルの動機
─ スタイルの出発点はどこか?
- 客観的起点 社会的な役割、場の空気など、外的な文脈からスタイルを導き出すタイプ
- 主観的起点 気分や美意識など、自分の精神や内面からスタイルを立ち上げるタイプ
この2軸をかけあわせたマトリクスによって、 “あなたにとって心地よい抜け感”の形が明らかになります。
*「マトリクス」とは?
ここで使っている「マトリクス」とは、2つの軸(たて軸・よこ軸)で構成された表(図)のことです。
この図では「抜け感」を、スタイルの動機(横軸)と努力感の見え方(縦軸)という2つの視点から分類しています。
【スタイルビジョン簡易診断|抜け感は必要?】
次の10の質問に「はい」か「いいえ」で答えてください。
あなたのスタイル傾向がどの象限に近いかが分かります。
A. 表現方法
1️⃣ 服装は「自分をどう演出するか」を意識して組み立てている
2️⃣ スタイリングでは、色・形・素材のバランスや完成度にこだわる方だ
3️⃣ シンプルすぎたり、ラフすぎる服装は、自分らしくないと感じることがある。
4️⃣ 鏡の前で何度も調整し、「これだ」と思えるまで手を加えることがある
5️⃣ スタイリングは、自分の存在や世界観を伝える“表現”の手段だと思っている
→ 「はい」が3つ以上→あなたは「上」タイプ(意図的・構築的)
→ 「はい」が2つ以下→あなたは「下」タイプ(自然体・調和的)
上側のグループ
スタイルを周囲にどう届けるかを重視するタイプ
▶︎ 意図を「見せる」ことで美しさを作る美的価値観
下側のグループ
スタイルを自分がどう感じるか重視するタイプ
▶︎ 努力や意図を「見せない」または必要としない美的価値観
B. スタイルの動機
6️⃣ TPOや周囲との調和を考えたうえで服を選ぶことが多い
7️⃣ 会う相手や場の雰囲気によってスタイルを変えることに抵抗がない
8️⃣ 服装によって「自分がどう見られるか」は、常に意識しているほうだと思う
9️⃣ 鏡の前で「この服、ちゃんと伝わってるかな?」とチェックすることがある
🔟 誰かに「素敵」と言われると、コーディネートの正解を確認できた気がしてうれしい
→ 「はい」が3つ以上→あなたは「右」タイプ(社会性・文脈重視)
→ 「はい」が2つ以下→あなたは「左」タイプ(内面性・主観重視)
右側のグループ
客観的起点 社会的な役割、場の空気など、外的な文脈からスタイルを導き出すタイプ
左側のグループ
主観的起点 気分や美意識など、自分の精神や内面からスタイルを立ち上げるタイプ
簡易診断の回答結果からあなたのスタイルビジョンがわかります
A | B | スタイルビジョンのグループ |
---|---|---|
上タイプ | 右タイプ | 右上 Flare・フレア |
下タイプ | 右タイプ | 右下 Echo・エコー |
上タイプ | 左タイプ | 左上 Myth・ミス |
下タイプ | 左タイプ | 左下 Stone・ストーン |

🌿 4タイプ別|あなたに合った「抜け感」の設計法
診断結果をもとに、あなたが属するスタイルタイプと「抜け感」との相性を見てみましょう。
読んで共感できるタイプが、現在のあなたのスタイルビジョンを反映している可能性が高いです。


右側のグループ
客観的起点 社会的な役割、場の空気など、外的な文脈からスタイルを導き出すタイプ
🔴 Flare フレア|The Performer(その場の空気を変える人)
右上:社会性 × 表現重視|「どう見えるか」「どう伝わるか」に敏感、どう表現するかが大切
視線を浴びる場面での“魅せ方”に長けたタイプ。
意図的な演出や構築性のあるスタイルに惹かれ、自分の世界観を完成度高く表現することを大切にしています。
「注目される前提で自分をどう見せるか」に強い意識を持つ。
例:インフルエンサー/政治家/カリスマ経営者/舞台俳優
- スタイルの起点:魅せたい・伝えたい
- 抜け感との関係:スタイリングを崩すことに「物足りなさ」を感じやすい
抜け感は無理に取り入れなくてよい - 向いている抜け感の作り方:
戦略的に必要と判断したときに、意図的に“緩急”をつける
完成度の高いスタイリングの中に、あえて“余白”を設計すると洗練される
🔵 Echo エコー|The Harmonizer(調和をもたらす人)
右下:社会性 × 体感重視|「誰と」「どこで」心地よくいられるかを重視、自分がどう感じるかが大切
他者や空間との調和を自然に意識するスタイルタイプ。
服装を通じて周囲に安心感や共感を届けたいという思いが根底にあります。
「自分らしさ」と「他者への気配り」のバランス感覚。
例:接客業/美容師/看護師/学校の先生/ファシリテーター/編集者
- スタイルの起点:調和・心地よさを届けたい
- 抜け感との関係:親和性が高いが、緩めすぎると印象がぼやけやすい
- 向いている抜け感の作り方:
心地よさを軸に、素材やディテールで「芯」を持たせると◎
左側のグループ
主観的起点 気分や美意識など、自分の精神や内面からスタイルを立ち上げるタイプ
🟣 Myth ミス|The Artist(詩的な表現者)
左上:精神性 × 表現重視|自分の感覚や世界観を服に投影して伝えたい、どう表現するかが大切
自分の内側にある世界観や感情を、服という手段で象徴的に語りたいタイプ。
スタイルは単なる着るものというより“詩”や“物語”のような自己表現に近い感覚です。
例:詩人/哲学者/小説家/前衛的アーティスト/宗教家
- スタイルの起点:自分の内側を表現して世界に届けたい
- 抜け感との関係:
抜け感が“ノイズ”になることもある、無理に取り入れなくてよい - 向いている抜け感の作り方:
「緊張」や「密度」を美意識として肯定し、静かな象徴性を活かす
🟤 Stone ストーン|The Architect(静かに形を築く人)
左下:内面性 × 実感重視|経験に基づく直感や持続可能性を重視、自分がどう感じるかが大切
着心地や素材感など、身体感覚に寄り添ったスタイルを好むタイプ。
繊細な感受性をもち、自分の気持ちや直感に忠実でいたいという思いが強く、
自然体でいることがスタイルの軸となります。
例:職人/医師/研究者/建築家/会計士/登山家
- スタイルの起点:自然体でありたい
- 抜け感との関係:非常に高い親和性を持つ
- 向いている抜け感の作り方:
無理のないシルエットと素材感で、クールな“素の自分”がより際立つ
抜け感の“心地よさ”は人によって違う
このように、スタイルビジョンの観点から見てみると、エフォートレスなスタイルに親和性が高いのは、下の「Down(Echo・Stone)」に属するグループです。
抜け感そのものが心地よさや個性を引き立てる“主役”になりうるのが、これらのタイプの特徴です。
一方、上の「Up(Flare・Myth)」に属するグループは、スタイルに明確な意図や構築性、演出性を求める傾向があります。
このタイプにとって、抜け感は“自然に出るもの”というより、むしろ計算された“緩急”、視線を誘導する演出として取り入れることで洗練されるものです。抜け感に違和感を覚えるのは、“自然体よりも意図”に美しさを感じる、そんなUp象限の気質かもしれません。
このように、「抜け感」とひとことで言っても、そのスタイリングには人それぞれに心地よいバランスがあります。
- 意図をしっかり表現したい人にとっては、抜け感は演出のための“テクニック”
- 自然体を大切にしたい人にとっては、抜け感そのものが“スタイルの核”
つまり、抜け感は全員に同じように必要なものではありません。
あなたにとって最も心地よい、緊張と余白のバランスを見つけることこそが、スタイルを整える第一歩です。
最後に|「抜け感」は、あなたらしさのバランスから
抜け感を上手に取り入れている人には、ある共通点があります。
それは──自分への信頼(=コンフィデンス)です。
完璧を手放す勇気。
力を抜いてもなお、美しさが揺らがないという自己信頼。
それがあってこそ、抜け感は単なる「カジュアル」ではなく「洗練」されたスタイルへと昇華されます。
もし抜け感がしっくりこないと感じているなら、
それはセンスの問題ではなく、あなたのスタイルには抜け感があまり必要ないだけかもしれません。
大切なのは、「どこで」「どれくらい」緩めるか。
そのバランスは人それぞれで、自分にとって心地よい緊張と余白のデザインこそが鍵なのです。
今はまだ自分のタイプが分からなくても大丈夫。
少しずつ理解を深めていけば、自然と“あなたらしいスタイル”が見えてきます。
もし迷ったときは、プロのサポートを取り入れるのもひとつの方法です。
スタイルエッセンス診断では、あなたの美意識と身体的特徴をもとに、
最適なスタイルの方向性をご提案しています。
次回予告
次回の記事では、あなたのスタイルビジョンに合わせた「緩急と余白」の具体的な作り方を解説します。
無理なく、今のあなたにフィットする抜け感スタイルのヒントをお届けします。
読んでよかった!と思ってもらえたら嬉しいです